まだ眠らない秋の寝顔/木屋 亞万
 

やわらかな枝をしならせる
稲穂のように頭をたれるその姿は
ちいさな赤い葡萄
あるいは藤の花のよう
この赤いつぶつぶは
もう白い雪を呼んでいる


高く高く空が澄んでいく
明度を増していく空気が
死にゆく葉の色彩を
一層くっきりと浮かび上がらせる
雨の朝も曇りの昼間も晴れた夕暮れも
少しずつ葉は枯れていき
ある日ふっと輝くのだ

毎日街をあるいていると分かる
橙に澄んだ葉が赤く輝く瞬間が
色づいた葉がはらりはらりと
木から離れていくのが
樹木たちはもう眠ろうとしている
一年を終えて
ひとつの命の形が終ろうとしている
春にまた華々しい花とともに
あたらしく芽吹くとしても
その眠りはとてもさびしい

赤く燃える木は
さびしさや未練を微塵も感じさせないほどに
赤く黄色く純粋に枯れていく
ありのまま眠ればいい
たとえそれが死ぬことであっても
そのままでいることはそれだけでうつくしい

風が吹くたびに散る暖色の葉は
終わりの始まりを告げる
樹木の花火

冬はもう見上げればそこにいる
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