冬/ホロウ・シカエルボク
るものを言葉に変換しようとする行為に見切りをつけて、ダウンコートのポケットからガムを取り出して噛み始める。青リンゴの香りが微かに感じられる。
街のメインストリートが近いこの川沿いにいると、しょっちゅうなんらかのサイレンを耳にする。救急車、パトカー、消防車。緊急ばかりだ。俺は呟く。そうだね、とガムの隙間から君が曖昧な返事を返す。なんとなく今日の会話がそれで終わる気がして、俺も話の続きを待つことを止めて閉じたボート乗り場から堤防に降りる階段のところに腰を下ろす。君は俺のそんな動作を目を少し細めて見ていた。冬が来るんだな、と俺は思った。メタリックなブラックの鴉がどこかから飛んできて川面に突き出している昔の橋の残骸に止まる。奴はそれから二、三秒俺たちのことを眺めていた。
冬が来るんだ。
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