僕と彼女と月/竜門勇気
 

ぼんやりと空を見ている
車のエンジンから
かちかちと熱が砕ける音が聞こえている
ただ夜は自分のあるべき姿であらわれた
それがどんな暴力かなんて知らずに
蟻の一匹が黒く湿った小さな紙屑になるように
うずくまる僕の上を両手を広げてふわり浮いている

彼女の怒りが恋しかった
彼女の声が欲しかった
彼女の全部が好きだった

僕はまたいつかみたいに月をみている

ぼんやり町をみている
月と街灯と窓から漏れる無数の光
涙で滲んで消える前に
無数を消そうと光を数えた
にこやかな瞬きとゆらゆら揺れる月の明かり
山の中に打ち捨てられた公園のベンチは
僕にだけ不親切な冷たさ
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