ある初夏の日の身震い/相差 遠波
 
警察が犯人を連れて現場に来ていた
私はそれも知らずに
突然走り出し綱を引きずりながら逃げる
飼い犬を追いかけていた
もうすぐ夏になろうかという
晴れた休日の正午

追いついた山の中の広場は
耕作放棄地だった
段々畑の残骸が
場違いに飛び出た糸杉一本残して
うららかな日差しを湛えていた
もうすぐ夏になろうかという
晴れた休日の正午

犬はまるでここに誘い込んだかのように
糸杉の根本のネコジャラシの中で待っていた
走り回って疲れた私は
誂えたように転がっている石の上に腰を降ろす
犬は満足げに舌を出して笑っていた
もうすぐ夏になろうかという
晴れた休日の正午

[次のページ]
戻る   Point(5)