オッペのひと/恋月 ぴの
 
息を切らしながら山道を登っていくと
薄暗い脇道から片目のポインターが飛び出してきて
びっこの前脚で器用に跳ねた

どうしたらよいのだろう

何かの病で左目を失くしたのか眼窩は
底知れぬ闇夜の存在を表しているようでもあり

たとえ走って逃げたとしても追いつかれる

立ちすくむ私のまえに現れた芸術家らしいみなりの女性
私に向かって笑顔で軽く会釈をすると
しっぽを振るポインターをいなしながら山道を下っていった




オッペとの関わりはそれが総てだった

相変わらず地図には美術館と記されてはいるけど
大道あやが開設したという美術館はとうに廃していて
今は、そ
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