御伽話その1〜くるみ割り人形の恋〜/永乃ゆち
くるみ割り人形の恋
それは雨の日。
片足の取れたくるみ割り人形は言いました。
「恋がしたいね。
こんな雨の日は。
燃えるようなやつを。
薔薇のようなやつを。
雨粒が蒸発してしまう程
熱いやつを。」
それを聞いていたペルシャ猫のシャランは
口の端だけ少し上げてへっ!と笑いました。
「そんなこと言ったって
アンタ薔薇を知っているのかい?
雨粒の冷たさを知っているのかい?
蒸発なんて言葉、いつ覚えたんだい?
昨日奥さんが林檎を赤ワインで煮てる時
ちょっと口走ったのを聞いていただけだろう?
どういう事だか知っているのかい?
おかしいね!へっ!」
雨が。
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