灯火/草野春心
どろりとした白い液を
使い古したフライパンに注ぎ
いま、君は
ホットケーキを焼こうとしている
じゅわり、
じゅわり、
温かな灯火が君の
胸の奥深くにそっと燃えたつ
けれど電話の音が鳴ると
拙いうなじのあたりに
吐息のようにやってきた思いに
ふっ、と
ひと吹きでかき消されてしまう
君の期待は打ち砕かれる
君の願いは踏みにじられる
甘く溶けたバター
一枚の白い皿
緩やかに涙腺をのぼってくる
あのとめどないもの
女よ、
君はいま
ホットケーキを焼こうとしている
戻る 編 削 Point(2)