灯火/草野春心
 


  どろりとした白い液を
  使い古したフライパンに注ぎ
  いま、君は
  ホットケーキを焼こうとしている



  じゅわり、
  じゅわり、
  温かな灯火が君の
  胸の奥深くにそっと燃えたつ
  けれど電話の音が鳴ると
  拙いうなじのあたりに
  吐息のようにやってきた思いに



  ふっ、と
  ひと吹きでかき消されてしまう
  君の期待は打ち砕かれる
  君の願いは踏みにじられる
  甘く溶けたバター
  一枚の白い皿
  緩やかに涙腺をのぼってくる
  あのとめどないもの
  女よ、
  君はいま
  ホットケーキを焼こうとしている




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