悲しみ/salco
悲しみは空っぽな鳥かごの中
小鳥は遠く離れて野原の地面の下
ひとりぼっちで目を閉じ埋まっている
柔らかな羽毛に包まれた小さな体は
土が含んだ夜露に濡れて
悲しみは流れ星の掠めた夜空にいつまでも
目に見えぬ光跡として残っている
墜ちた願いや絶えた夢は今さえも
君の乾いた両眼に焼きついている
その為に口惜し涙を流す理由もない今でさえ
悲しみは飲み干された酒瓶の中
酔っ払いはもう長らく見つめている
空っぽの瓶の中には終わりがあるだけ
使い古した片道切符の行き着く先は
白昼に曝された陰惨な覚醒だけ
悲しみは古ぼけた松葉杖の初老の男が吹く
口笛のでたらめな旋律の五線にある
皮膚の擦れ、瘤さえ出来た両腋下に体重を支え
足おぼつかぬ幼な児にもこうして追い越され
そんな男が自分の為に吹く行進曲
悲しみは心を病んだ女の朗かな笑い声や
眠られず夜中に水飲む男の咽仏の中にある
雨続きに発狂した女には晴天下、毎日傘を叩いて降り
無骨な掌で無をしか築けなかった男の咽に引っかかる
悲しみは日向の窓辺や安らかなベッドの足元に在る
ただ、そこに在る
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