ノート(三つの滴)/木立 悟
滴の内にわたしは居て
滴に映るわたしを見ていた
笑うわたし 泣くわたし
音を持たないわたしを見ていた
滴の外にわたしは居て
滴に映る昔を見ていた
歪んだわたし 虹のわたし
重ねてひとつのわたしを見ていた
三つの滴に囲まれて
わたしは身体を傾けていた
手からこぼれ落ちた小さな何かを
わたしは拾おうとしていたのに
何かがあまりに多すぎるので
身体を傾けたままでいた
ある日三つの滴が割れて
わたしはどこにも居なくなった
こぼれ落ちた何かから
拾えなかった何かから
同じわたし
違うわたしが現われて
手をつないで歩いていった
滴のように歩いていった
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