森のエニシダ/Lily Philia
あたしたちには
決して触れられないものがあった。
さくらもりには、
生きているものも
そうでないものも
おんなじ比重で
そこに在りつづけていた。
かみさまが作り上げたままの姿で
陰を積み重ね、
たしかにずっと
いのちを保ち続けていた。
大切なことは、
目にみえることばかりではなくて
(そのことにきづくものはだれもいなくて)
きっと
呼吸の仕方さえも
かみさまにかたちづくられたものだったのに。
湖の向こうから
こころに浮かぶものたちがやってくる。
(境界をなくして生き戻ったものたちのこと。)
(ことばのせかいとそうでないせかいのこと。)
そうして、深い呼吸と共に鳥がおりてくる。
その羽がちるように
花びらがちって
息を潜めていた精霊たちのする
その平等すぎる仕草で
あたしは、
救われるべき
声をきく。
さくらもりの
幾千の桜の
そのなかの一番若い木の根に身をうずめ
花びらに埋められてゆく。
ここからは
空がみえる。
あたしは、
あなたの一部でしかないことを知る。
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