寡黙のひと/恋月 ぴの
 
思い出の数には限りがあって
両の手のひらからこぼれた思い出は
ひとひらの色あい

鮮やかに晩秋の野山を彩っては
やがて力尽き
道端の
ふきだまり
静かな眠りに何を夢見る




ひと恋しい

何ゆえにと問われても
触れ合う肌の安らぎと組し抱かれて

額に滴る汗は狂おしく
愛する男に犯さる悦びに酔いしれたひと夜が
忘れられないのか

満たされたくて
滲みでる欲情の兆し

メス豚と尻を叩かれた肌の震えはよみがえり

歯がゆさにひと恋しさと
鏡へ映す
この肌のほてりは鎮められずに




忘れえぬもの
それゆえにこころの奥襞で疼き

愛は
肉欲は

気づけば漆黒に沈むやせ細った潅木の枝先に

百舌が串差した早贄の長い

長い触角は冷たい北の風に震える




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