三月のエスカレーター/草野春心
 

  三月の
  まだ、少し肌寒い日
  人々のざわめきが
  どこか他人事のように響く朝
  駅へと続く道を僕が
  いつも通りに歩いていると
  巨大なエスカレーターが
  青空に向かってまっすぐ伸びていた



  何の変哲も無いやつだ
  階段の部分は、黒い長方形が重なり
  両端は、警告を示すように黄色く
  手すりは深い緑色
  何の変哲も無いやつ
  変哲があるとすればそれが
  天を突くほどに
  おそろしく巨大で、長いということ
  そして乗っている人間は誰一人いない
  目視できる範囲で言えば



  僕は
  最初の一段に
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