ジュネのため息/御笠川マコト
六月に運ばれてきたその娘を
誰からともなく
Juneジュネ、と呼んでいた
体育の授業中に倒れたそうで
ブルーのジャージの上から
医者の武骨な手が
ポンプのように胸を押す
イチ、ニィ、サン…抑揚のないカウントが続く。
プシュー、プシュー、器械の音が
昼間に聞こえたら
ジュネのため息
夜中に聞こえたら
ジュネの寝息
茶色い縁の眼鏡をかけたジュネの母親は
毎朝決まった時間に訪れては
まるで台所にふたりで居るかのように
普通の、口調で
娘に話しかけている
僕は白衣を着ているから
痩せてゆく足を洗うところも、
深緑色ほどに黒い髪を洗うところも、
微笑んで眺め
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