君の手のひらに触れようとしても、怒らないで欲しい/ブライアン
 
 長い間音楽を聴かないようにしていた。朝、満員電車に揺られ、つり革に手のひらを乗せ、片手で本を読んでいる。誰の声も聞こえない。電車の走る音が体中に響いている。車内にアナウンスが流れる。次の停車駅を告げる。
 電車が駅に止まるたび、車内は窮屈になる。隣に立つ男性がスマートフォンを触っている。メガネをポケットから取り出し、つける。スマートフォンの画面は彼にしか見れないように加工がされていた。彼の耳にはイヤフォンが押し込まれている。音漏れはしていない。
 本のページをめくる。いすに座った中年の女性が眠りから覚め、窓の外を見る。ここはどこだろう。見たことのない景色にも見えるし、見たことのある景色にも見
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