業歌(ひとつの腕)/木立 悟
吠えるものが増してゆく
渦まくものが増してゆく
雨の終わりに流れ込むもの
ひとつの腕に映り込むもの
うねりは低く増してゆく
車輪と鉄柵
夜の雪雲
曲がり角の精霊
火を囲み 火を囲み
叫びを滴を受け入れる
髪結いの野は乱れに乱れ
声は土に増してゆく
空は傾き 目をひらき
緑へ緑へ近づいてゆく
怒号のような歌が押し寄せ
腕を踏みつけ 空へと昇る
空は灰と緑と血に照らされ
灰と緑と血に去ってゆく
腕はいつか荒れ野に目覚め
なにもない朝を見つめる
緑の傷をたしかめ
倒れた草を抱き上げ
風のなかを歩いてゆく
異なる光 異なる声
異なる歌へと歩いてゆく
あちこちで緑が吠えている
ひとつの腕が響きを鎮める
かつて共に吠えたものが
いまは波をなだめながら
声に寄り添い
緑に染まる
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