嫉妬/長押 新
千代千代と鳥が鳴く。冬には朱色だった夕方がもはや黄色である。子宮が死んだ。かの様な月がまだ暮れない空に浮かぶ。女。隣に住む奥さんが産まれたばかりの赤子を連れて庭園散歩から帰って来た。其れを見た女はおずおずとベランダの鍵を閉めて部屋に戻る。ムッとした風が吹き硝子が揺れた。ベランダの硝子扉は受けた熱を女に向かって放つ。乳の先端から色の赤い母乳が流れ出る。女からは白い母乳が出ることが無い。薄い色の乳首からは、捻れば血が出る。女は若い。其れでも既に処女では無く、少女としての面影も柔らかい笑みを残して消えていた。痩せた体にひっそりと張り付いている胸。熟れ切れて尻の垂れた奥さんは醜い顔をしている。それでも女より胸が大きい。長い間、詩を孕んでいた子宮は狭すぎて、女は子を持つ事が出来ない。この女とは。この女とは当然のように美しい私なのだった。奥さんを罵りたいがために指を腫らしてショットガンを握っている。打てない。真夜中には猫の交尾の悲鳴。静寂は訪れないのである。
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