心のギャラリー/さすらいのまーつん
異質な世界だ。
狭い我が家の中で完全に解かれていた警戒心のロープが、両親の中で少しだけきつく締めなおされているのを、その子は敏感に感じ取っている。ふわふわのカーペットを這いながら吸っていた我が家の空気より、ここのそれはちょっと硬いのだ。
その子は誰かに微笑んでみる。そうすれば、大抵は微笑みが返ってきたから。
新聞を広げる休日出勤のサラリーマン。携帯を睨む着飾った若い女。雑談に興じる若い男の二人連れ。 惜しむらくは、子供に相好を崩してくれる年配の人々も、母性をもてあました若い女性も近くにはいない。
誰も微笑み返さない。
僕もまた、無関心にその子の微笑を見詰め返す。若い頃の自
[次のページ]
戻る 編 削 Point(14)