水の器/かいぶつ
君が記憶の裏庭で
水浴びを楽しんでいる間
僕の記憶の天井は雨漏りで
傘の中、数えきれない雨粒を
指折り数えている
頭の中にはいくつかの泥濘が作られ
天使が次々と身を投げる
それを手放しで悲しむ為に
どうせ数えるに足らない指だからと
墓標の代わりに指を埋め込み
短い祈りを笹船にして
水の視線へ浮かべた
窓が雨に叩かれ
天井裏で生計を立てる鼠は
磨り減った前歯に手をあて
雷魚の尾びれが石を打つ
円卓のトマトに映る鳥の影は行方知れず
脱臼した空 水の器が慰め
注射器の針の先
蝶々が群れる
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