猫/MOJO
 
ある。数週間後、おれはあの人懐っこい雌猫と偶会したのである。おれの住むマンションは四階建てでおれの部屋は三階にある。エレベーターはない。仕事を終えて帰宅したおれが階段を上って部屋に戻る途中、二階の踊り場付近にあの猫が現れた。いつものように足元にはじゃれついてこない。鳴きながらおれから離れてゆく。離れながらまた鳴く。どうやら、こっちへ来い、とおれを呼んでいるようだ。付いていってみると、角の空き部屋のガスや電気のメーターが設置された機械室の扉が半開きになっていて、中を覗くと、ぼろ雑巾やらウエスを敷きつめたベッドに、白ぶちや黒や鯖虎の仔猫が眠っているではないか。
 おれはコンビニに走って、彼女のために猫缶を買い、自分のために缶ビールを買った。 数日経つと、猫は仔を連れてエントランス付近に下りてくるようになった。仔猫たちの食欲は旺盛で、おれが持ち帰る残り物の惣菜をうーうー唸りながら喰った。しかし、母猫がそうするように、おれの足元に擦り寄ってくる仔猫はいなかった。 
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