夜 いない夜/木立 悟
 




悲しい顔をした岩が
森をのせてつづきゆく
触れると消える
左まわりの虹


指を握り返しそこねた朝に
ふたたび夜を見そめ 見そめる
崖の王国
響きはけして 返ることなく


自由も幸せも無い大陸に
一部のいのちは引き寄せられて
燃えるはずのないものを燃し
人ではなくなり 叫んでいる


迂回のための地図の裾
風を避けようと指を失い
同じ場所に生える言葉を
生えるままにたなびかせてゆく


語らない影
坂を下る影
帰るふりをして 帰らない影
冬の浜のかたちをたどる


背をひろい集める生きものが
読めないうたをうたっていた
どこもかしこも
読めないひかり


真似ごとの凹空を
さらに真似る海の音
あれもこれも既に
なにもかもが 既に


眠りが眠りの一部を打ち
ひらいたことのない本をひらかせ
水たまりにしか映らぬ雷
泣いている夜の手を握る 



























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