雨のむこうに/さすらいのまーつん
 
るのを 引き伸ばして
母を随分 心配させたっけ

大人になるということは
喪失の過程でしかない とよく言われる
失ったものは なんだろう
それは金では 買い戻せず
どんな古物屋にも 置いてない
形もなく 重さもなく でも確かに

この胸のうちにあった
何か一途で 疑いを知らない
ある種の 信頼のようなものだった 

何か 生まれる前から 持ち続けてきた
見えない 約束のような

背広を濡らす 雨粒に
偽りの涙の 白々しさを見る
そんな 今の自分が
随分 みすぼらしく思えて

駅のホームの向かいで
傘を振り回してはしゃぐ ランドセル姿の子供たち
あいつらに比べて 自分はなんて 貧しいのだろう
まるで めかしこんだ 物乞いのように

雨は時を超えた 銀幕のカーテン
そのむこうに 失われたはずの 自分が映る
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