しあわせなひとたち/佐々宝砂
 
二次会に行く同僚にさよならを言って
いつもの店に入る
カウンターに坐る
カウンターには
少しくたびれたフラワーアレンジメント
アルストロメリアだけはまだ綺麗

キープしてあった焼酎を出してもらう
ボトルに書いてある私自身の名前が
ずいぶんと汚くていやになる
私が書いた私の名前は
どうしてこんなにも醜く見えるのだろう

隣の席に坐っているのは
この店でよく見る男
私には買えない高級ウイスキーを
ひとり静かに旨そうに飲んでいる
ウイスキーのボトルには名前がない
この店でそのウイスキーを飲むのは
彼ひとりなのだろう

私もひとり静かに旨そうに
酒を飲んでみよう
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