塔/深水遊脚
最初からそこに確かにあった
遠くから見上げる立ち姿は
あまりに機能的で無駄がなく
目に映るほかの風景を邪魔しなかったから
ほかのものばかりに目が奪われ
それを意識することがなかった
ふもとには金網があり
ありふれた立入禁止の注意書きなんかがあった
ごみ収集所になっているものもあった
そこから塔を見上げたことは何度かあったかもしれない
かなり多い回数見上げているかもしれない
でもいつ最初にそれを見上げたかが思い出せない
夜に何やら赤い灯りが点いている塔もあった
点滅しているものもあった
その灯りも最初からそこに確かにあったけれども
灯りと塔とは私の頭のなかで
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