レクイエム/ララバイ/塔野夏子
 
あの頃
世界は終わりつづけていた
人々がざわめき行き交う街は
同時に 虚ろな廃墟だった
あらゆるものが僕の意識から
辷るように遠ざかりつづけていた
   (でもいくつかのものごと たとえば
    誰かが橋の上から放り投げた花束
    広場の踊り子のゆらめくスカート
    プラットフォームに立ちつくす黒い外套の人の憂いの瞳
    そんなものたちの記憶が妙にあざやかなのは
    何故だろう)

終わりつづける世界から
自分を護るためにだろうか
僕は僕の輪郭を研ぎ澄ましつづけた
   (ひょっとしたらあの頃の僕の姿も
    誰かの記憶に あやうくあざやかに
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