立方体/渡 ひろこ
いま、立方体の中で手足を折り曲げている
きっちり蓋を閉めて 一分の隙もないように
それでもはみ出しまう「私」が漏れ出て
側面を綴りながら、ゆっくり滴っていく
シジン、と名乗っているうちに
いつの間にか変換キーが
ヘンジン、としか表示しなくなったのだ
きっと似非(えせ)、という冠を頭に乗せて
お道化てばかりいるからだろう
行く先々で出会う
似非(えせ)シジン
じゃないまっとうな人たちは
正確に計られた立方体に
収まることが身についている
そしてどんな場面でも目測を誤らない
すばやく相手の雰囲気を察知して
距離感を測る
言葉の種類と位置を確
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