いちご/みい
とろり 練乳だけが粒の奥の事情を知っていた
ある種はここは甘すぎていつのまにか自分が居なくなると言っていたし
またある種は女の子の風邪を治そうと熱ばかり飲んだ
なのにあたしはそれをグラスの中に落として丸のみしたのだ
雑音を避けて耳を塞がないで
あたしの ただいま をいつも聞き逃している
そんなときいつもあたしは冷蔵庫を開けてしまう
赤い粒、はやく落とさなければ。
ひとつ グラスの中にあたしが見えた
よるが深くなるごとに種は眠ってゆく
眠る前、無造作すぎたこの生活を少しだけ持って行ってくれた
だけど、たぶんいちばん重要なものも一緒に持って行ってしまった
あたし
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