アニュアル/橘あまね
かり かりらん からん
鉦の響きが行列を先導する
満ちていく途中の
なまめいて誇らしげな月の下
馬の背には選ばれた幼子
金襴にくるまれて
視線を集める戸惑いを隠せずに
それでも高揚した表情を
囃し 手を振る人々に向ける
いい ゆいいいいい いいい
笙の響きが行列を支える
馬の口取りをする青年
高張提灯を掲げる老人
沿道のロープを越えて
係員にたしなめられる酔漢は
きっと遠い日を思い出している
世界中の何もかもが敵であるかのように
錯覚するときは
この夜のことを思い出しなさい
人々に、神々に愛されてそこにいたことを
思い出しなさい
肌寒さと熱気が混ざり合って
この夜の誰もが主役だったことを
忘れずにいなさい
大祭の夜はしめやかに更けて
神在の月に照らされた人々は
いちばん大切なものの
鼓動と呼吸を確かめなおす
戻る 編 削 Point(16)