聖域なき未来に少女がみた世界/済谷川蛍
 
て父親の声が聞こえているのかわからなかった。身体が動かず、耳もほとんど聞こえず、虫のように地面に這いつくばっていた。そして気がつけば、血だらけの父親が自分の名前を叫んでいた。
 「なに、お父さん……よく、聞こえない……」
 「サチコ、死ぬな! サチコ、死ぬな!」
 泣きわめいてる父親を見るのは初めてだった。サチコは父親の手を握り返し「わたしこそ、いままでごめんなさい」と言って目を瞑った。聞き覚えのあるゆりかごのうたのメロディーが聴こえた。地平線のギリギリまで低くなった夕陽がまぶたの向こう側からでも眩しかった。
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