夜を静かに/空中分解
 
騒音の中にいた

僕の気に入っている子を目で追う

少しの間ふらふらと部屋を彷徨った後彼女は

裸電球が周りに幾つも並んでいる大きな鏡の前で

化粧を直し始めた

僕がもたれている壁の反対側に鏡があるので

自然と彼女の顔が見える

じっと見つめていた僕の視線に気ずいた彼女は

数秒間僕を視て、また化粧をしだした

思い切って、声を張って彼女に話しかける

「ねえ、君の目はとっても奇麗だね。その事知ってたかい? 」

周りの騒音が一斉にこちらを向く

「えっ? 何? 目がどうしたの? 」

彼女は気にせず鏡越しにこちらを見ながら返事をした

「いや、目が奇麗だっていったんだ」

「そう? ありがとう」

彼女は別段うれしくもなさそうに鏡を見たまま肩を挙げて応える

僕は決まりが悪くなって窓に近づいて外を眺める事にした

そこからは僕の家も、多分彼女の家も見えないのだろうけど

同じように窓際に立ち外を眺めている人影が見え

ぼくは手を振ってみた

人影もまた小さく手を振りかえした
戻る   Point(1)