ある家族/さすらいのまーつん
 
君は優しい家庭に 育ったんだな
パステルカラーの思い出を いとおしげに語る その口元
少し気の早い 白のコートの襟の上で結ばれた サクランボのような微笑み
夕暮れの向こうから忍び寄ってきた寒さに 肩をすくめるふりをして
俺は缶コーヒーのふたを開けた
君の目から それとなく視線を逸らしながら

俺の家庭にも 笑いはあった
それは長く続く嵐の季節に 時おり覗く 晴れ間のようなものだった
暗い雲の谷間にひらめく雷鳴のような 親父の怒鳴り声
死ぬまで俺の鼓膜から 剥がれ落ちることはないだろう
絨毯にカビが生えるほど流された お袋の涙も
この瞼の裏に 焼きついている
俺の家は貧しか
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