熟れた鳴動/汀
許すな、と鳴く虫がいる
頭の中の虫で
その声は私にしか聞こえず
いつかどこかで聞いた声
誰かの声
問い詰める理詰めの声
誰をどうやって
何をどうして
汚したと壊したと言うのだろう
この指はまだ幼く
君の指よりは汚れていたけれど
カサついた唇の
薄い痛みをそうっ、と剥げば
見えるのは嘘の裏の叫び
それはリップクリームじゃあ消せやしなかったもので
けれど蜂蜜ならば
癒せたかもしれなかった声で
金切りにも近いような響きを
未だ私は待ちわびている
鐘が鳴れば
鐘さえ鳴れば
全ての導きが生まれると
この指が告げる
誰にも届かない理詰めの音色で
ああそうか
あの声はいつか
君の叫んだ悲鳴だったかもしれない
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