野良猫あるいはルンペン(全)/……とある蛙
 
浮かんで隙ねらう。

ついに自由な筈の鴎たち
漁港の空は鴉だけ
ついに鴎は消えるのか
それとも北に飛んだのか



ひょいと見ると出窓の内側で
そいつはいつものように
出窓に置いてある
真空管式の古いラジオに
じっと耳を傾ける
ビクターの犬のようだが
そいつは黒猫だ

出窓からは朝の港町の風景が広がり
開け放った窓からは
潮風と鮮魚と干物の交ざった匂いが
ゆっくりと吹き込む
その部屋の主人は
七枚重ねのスカートを履いたマリア
陽気な彼女は踊るように洗濯物を干す
もちろん亭主は漁師だ

しばらく出窓で微睡んでいた黒猫は
ひょいと窓からカンテラに
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