を/salco
 
ころはそれにもこれにも直面したくないわけでし
て。だってあなた、生まれてまだ十四年ばかしですもの。早生まれですし。

 横目で見やれば、蚊取りの煙が漂う中を俯いた親父の顔は、鍔(つば)の下でお
天道さんより歳月に焼けているようで、目ばかり鈍く光っている。それ見
ると胃袋に金棒でも突っ込まれたみたいに気が塞ぐ。おまけに蚊はあたし
の黄色い体ばかし狙って来るンです。親父の皮はこいつらにとってさえ枯
れ果てて見えるンだろうな、と。
 いえ、その晩方に親父の顔が黒ずんで見えたのは、労苦のせいだけでは
ありませんでした。検査入院したのが十月。ガンと言や、当時は切るしき
ゃありませんでしたからね。胃袋とっぱらった親父は痩せるだけ痩せて、
ダンピングてえんですか。あれに耐えるだけ耐えて、翌年の師走には、え
え、文字通り枯れて。 肝臓だの胆嚢だのにソックリ移転しちゃっちゃあ
ね。あ、転移ね、転移。


                              つづく
戻る   Point(4)