残暑/千波 一也
 


おもいで、と呼ぶには
早すぎませんか

わたしの肩に
のしかかる時間を
不思議な重さに替えながら
にわかに雨は
零れはじめて

ゆるやかに、
空のとおさが
染みるのです


 あの
 岬に揺れた
 草花は、もう
 しらない色になったでしょうか

 あの
 窓からながめた
 町明かりは、もう
 ちがう足どりになったでしょうか


うっすら、と
飲み込みがたい
寂しさは
言葉に
出来ず
わたしの背中を
ときどき伝います

まだまだ
暑うございますね、と
やさしい文句で
挨拶をして

ひやり、
ながれて
ながされて

きょうの
居場所を
すこしずつ
覚えさせられるのです


あやまり、と呼ぶには
早すぎませんか

ましてや正解だなんて
あなたも、
わたしも、






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