名前という制服/さすらいのまーつん
名前がないもの
例えば
うだるように暑い夏の日に 天井から落ちる 水滴
絞首台のロープの先で踊る 顔の隠された 身体
例えば
晩夏の路地裏で拾い上げられた セミの抜け殻
あなたの後ろを 不意に走り過ぎる 子供の靴音
名前という制服から
自由でいるためには
その他に ならないといけない
例えば一軒の家の
壁の一枚一枚に 名前を付けたりはしないように
例えば一本の木の
葉の一枚一枚に 名前を付けたりはしないように
名前から逃れるには
多くを手放す必要がある
人はそれに耐えられないから
自然をうらやむ
魚は海を泳ぐために 水着を着たりはしない
鳥
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