指の味がしそうな塩水/ズー
 
波音に耳を澄ましている。
いつの間にか無呼吸症候群のシマさんのおでこに、うずまきを、書き加えていると、新聞が配達される前には眠れって顔で、きょうは寝て曜日だな。おやすみ、のん兵衛くん。とこんなことをシマさんは俯せになりながら、云ったのだろうか。
映画のラストシーン、水平線に太陽が沈んでいき、女が走り去った砂浜の、波打際の足跡と、ラベルの擦り切れた酒瓶を、大波が、きれいさっぱり消していき、シマさんの背中に酸素ボンベを書き加えている、こどもたちも、走っていく。
6才になったばかりで砂浜を走り、大学生になった男の子が父親より早くトラックを一周できるようになると、砂浜の一角を陣取っているマネージャーは日焼け止めを手に持ったまま波の止まった風景画に恋をする。いびきのうるさいシマさんの鼻にもろこしを詰めて、指の味がしそうな塩水を一息にのむと、何もなかったように、太陽がのぼる。
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