エンジェル/長押 新
大人が泣くのは、
羽根が生えたからだろうか。
少女だった私は、ピンクの空を眺めながら、右手で頬杖をついてコーヒーが冷めるのを待っていた。夏から秋に変わる黄色の夕方が終わって、少し夏に戻ったような空。それもすぐに消えて、秋を告げている。少女は、空を眺める時間を持っていて、コーヒーを冷まして飲むことも出来た。けれど、今のアタシのように、朝の色は知らなかった。少女の朝は忙しいから。
器に 時間が溢れ
指の間をこぼれる様に ハラハラと
一面に広がっていく
空の色が
こうもクルクル変わるのは
虫の羽根の色だけを そのまま映すから
少女だった私は、夏の虫を追い払うために、体をパンパン叩いて、腫れた頬を鏡で見つめている。追い出された虫は、ヨタヨタと歩いて、大人の背中にくっついた。あの頃のアタシは知らなかったけれど、大人には虫が住んでいる。よく、天使の羽根に間違えられたり、自由の翼と呼ばれたりしている。少女のアタシなら気がついているはずだけれど、人間に羽根なんて生えない。アタシは忙しいから。
子供が泣くのは、
腹が空いたからだろうか。
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