午後の枕木/たま
 
て?
 コンクリートだから。あたし、木が好きなの

 木・・? ああ、わかった
 枕木のことでしょう、それって

 うん・・。 それ

Hの気持ちはもうすっかり東京を離れていた
見知らぬ沿線の秋の気配を漂わせて、列車は静かに
ホームにすべり込んできた

 ねぇ、キスして
 やだよぉ、はずかしいから

 そうね、もう若くもないしね 

Hの背を抱きしめて素早く頬にキスをする

 早く、帰ってこいよ
 うん。

Hの幼い笑顔が跳ねた


さようならを育てるように、人は生きているから
いつかはきっと終の棲家にたどり着くけど
この街にふたりの棲家は見つかるだろうか

明るい日差しを浴びた午後の枕木がゆるく蛇行して
海辺の駅へとつづく
半島の先端
岬はいつもそこにあって
今日も
Hの水平線を描いているだろう










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