夜明け前/千波 一也
思い返せば、
みじかい言葉でした
苛立ちも
かげぐちも
願いでさえも
今となっては
レンズのない顕微鏡のような
役立たない、とは
言わないけれど
言えないけれど
もう少しだけ
毛布にくるまれていたい、とだけ
本音をぽつり
慣れた手つきで
開きかけたカーテンを
放置してしまいましょう
やめたところで
だれも困らないなら
すてき過ぎて
泣けてきます
振り返ることは、もう
終わりにしましょう
だれかに
聞いてもらえるような
願いではありませんでした
聞いてもらいたかったのか、と
問われたら
[次のページ]
戻る 編 削 Point(5)