秋刀魚/花キリン
 

秋刀魚の焼く匂いに誘われて野良猫がやってきて
こんにちはと挨拶するわけではないのですが
いつの間にか油ののった秋刀魚を口一杯に頬張って
一緒に秋の味覚を楽しんだものです

七輪という魔法の料理器がどこの家にもありましたから
秋の出入り口に網をかぶせる様にして
大きな秋刀魚を七輪に載せて団扇でパタパタと扇ぎますと
野良猫たちは忙しそうに隣近所を走り回っていました

あれから何度も目覚めを繰り返してきましたが
野良猫一匹であっても疑心を持たずに友達になれた時代でしたから
小劇場の舞台に立つ演技者のように気負うこともなく
長閑な季節の贈り物を感謝しながらいただいたものです
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