自虐のひと/恋月 ぴの
 
か弱いものでも生きてゆける
それが人間らしさってこと

それなのに時には誰かを押しのけては前に進み出て

この一歩が生死を分けるのよね
なんて言い訳をする




世の中は悲しみのうえに成り立っていて
この瞬間にも誰かが泣いている

それでも流した涙ほどに報われることは無く

母を亡くしてはじめて気付くのは

若かりし頃のやさしさとか
ふと胸に抱いてくれたぬくもりの安らかさとか

そんなものだったりする




悲しみはひとの目を曇らせるのか
出てくることばは嘆きばかり

気分転換と秋のはじめに散策でもすれば

目の前の景色に何故か見覚えがあって
それは母の描いた風景画のなかの色合いだった




若すぎる死ではあったけれど
亡くなるべくして亡くなってしまったのは確かなようで

遺品整理と称しながら投げ捨てたもの

母が集めた土鈴の数々
老人会の輪投げに興じる母の笑顔



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