自虐のひと/恋月 ぴの
か弱いものでも生きてゆける
それが人間らしさってこと
それなのに時には誰かを押しのけては前に進み出て
この一歩が生死を分けるのよね
なんて言い訳をする
※
世の中は悲しみのうえに成り立っていて
この瞬間にも誰かが泣いている
それでも流した涙ほどに報われることは無く
母を亡くしてはじめて気付くのは
若かりし頃のやさしさとか
ふと胸に抱いてくれたぬくもりの安らかさとか
そんなものだったりする
※
悲しみはひとの目を曇らせるのか
出てくることばは嘆きばかり
気分転換と秋のはじめに散策でもすれば
目の前の景色に何故か見覚えがあって
それは母の描いた風景画のなかの色合いだった
※
若すぎる死ではあったけれど
亡くなるべくして亡くなってしまったのは確かなようで
遺品整理と称しながら投げ捨てたもの
母が集めた土鈴の数々
老人会の輪投げに興じる母の笑顔
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