つくせぬ手紙/乾 加津也
 
友へ

こころを寄せて
手紙をしたためています
わたしのうしろで書かれないものたちが
茶化して耳をくすぐります
フェルメールの筆は光の代用
ずっと見ていたかったのに
わたしは弁明しなければなりません
アメンボの糸のような己の投影
(すべるような/ことばの/うわつら)

 はるかな
 友よ。




読書のやすみを掻きわけて
ふとした乱気がわたしの背画をゆるめます
うすむらさきの「石の都」を知っていますか
霧が矢のように走るころ
タールまみれの工場に隠れた瞳
斜陽で捩れた手押し車が燃えています
とおくで濡れた歓楽街にもにて
虫を咥えたすずめも笑う

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