カスミの空/御笠川マコト
カスミさん
会うたびに「はじめまして」と言いますね
記憶を保てないあなたは
世俗の煩わしさに悩むこともないのでしょう
私とは違う 栗色の瞳は
何を追っているのでしょうか
カスミさん
親ほどに歳の離れたあなたに
頭を下げられる私は 何様でもなく
ただ
立ち上がるのが下手な あなたと
生きるのが下手な 私
カスミさん
ひょっとしたら
何もかも承知で
認知症の老人を演じているのでしょうか
もし目の前で私が泣いたら
小さな声で断言してくれますか
病院の窓に広がる空が
三十年前とつながっているのだと
立ち上がるのが下手な カスミさんと
生きるのが下手な 私。
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