月下美人/花キリン
咲き忘れたという曖昧が実を結ぼうとしている
ここに月夜の一滴の滴を置いた悪戯が
昨日のように蘇ってきた
悲しみなどという言葉の甘さに
蛍の群れは誘われて死んでいった夏は過ぎた
せせらぎなどのない荒廃した玄関口で
言葉を交わすことがなかったもの同士が切ないねと目で会話する
何とも奇妙な時間だ
もうすぐ秋の十字架が季節の胸に架けられる
こほんと枯れた咳をしながら
老いた姿勢で仰ぎ見る月の光だけでは
欠けた視野を補いきれるものではない
それでも蘇るという奇跡
じっと一点を見据えていると確信するものが見えてくる
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