二重歩行/あまね
背中のあとをついてゆく
森の一番奥のあたりで、
わたしはわたしでなくなって、
珪素の結晶の小さなひと山に
なっていた
銀色の蝶の群れがそのまわりを
しずかにしずかに舞っていた
わたしは砂をかきわけて、
わたしを探してみたけれど
砂の下にはなんにもない
地面さえも
なんにもない
わたしは蝶の群れに囲まれ
わたしが最後にわたしだったあたりに
涙をこぼす
ひとしずく、またひとしずく、
気がつけば、
いつもの気だるい散歩道
(やっぱりこれは白昼夢?)
ポケットの中には
一掴みの珪砂がのこっていたけれど
あえかな感触と
その色を確かめる間もなく、
はかない珪砂は
南東風にさらわれて、
空のぜんぶに散らばった
(ああ、わたしはまた
ひとりぶんのわたしを
失くしたよ。)
独りさみしい
いつもと同じ帰り道の途中で、
わたしはわたしのすこし後ろを
わたしが歩いているのに
気づいてしまった
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