桜/花キリン
 

頬がこけて生きたまま骨になっていく姿に重ね合わせながら
長い時間かけて噛み砕き飲み込んだ
死相があちらこちらで腐り始めていた頃だったから
ごろごろになった固体の絶望という絵模様を
無気力な姿で眺めていた

敗戦という二文字は禁句だったが
空にも届かない中途半端な銃では勝てないと
上等兵もわかっていたから親切だった
それでも訓練の厳しさに
古くて重いげき鉄を何度も引き起こしては
大隊長や中隊長に向って打つしぐさを繰り返していた

桜の季節になると
ふきのとうの苦味のようなものがせり上がって来る
もうすでに天皇陛下は写真の人となり
あの大隊長や中隊長も写真の人となったが
骨だけになっても
しばらくは突撃を口走っていたらしい

桜の木の下で
思い出すものは少なくなったが
幾つになっても
この苦味だけは忘れることができないでいる

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