彼女らはいずれも澄み切った声をしていた/吉田ぐんじょう
 

彼女は晴れの日でも傘を差している
雨を異様に怖がっているのだ
酸性雨を浴びると体が跡形もなく溶けてしまう
という話を子供のころに聞いて以来
ずっと信じているらしい
雨が降り出してから差すんじゃ遅いの
ちょっとでも髪が濡れたらそこから溶けちゃうの
繰り返し言う彼女の傘はあかるい緑色で
だからいつでも彼女は
夏の野原のただなかに
たった1人
しん、と立っているように見える



しんたろうくんっていうの
とあの子は
さもそこに恋人がいるかのようにわたしに紹介した
隣には誰もいなかったのだけれど
失礼にならないように
はじめまして、しんたろうくん
とわた
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