靴音/花キリン
 
して生きている

戦争経験者には
六十年以上過ぎても軍隊の靴音に聴こえてくる
あの時しっかりと抱きしめたのは
家族の命だけで
靴音は捨て去ってきたのだが

自生するものが根付くように
平和が根付いたのだろうか

笑いながら
通り過ぎることができない曲がり角が増えている
軍隊の行進の靴音は
どこにでも隠れる身軽さを身につけているから
危険な兆候なのだと誰も気がつかない

それでも両の手を大きく広げて
走り寄ってくる孫の体をしっかりと抱きしめたい
なにがあったとしても
老いた命のバリケードを張り巡らせて


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