靴音/花キリン
して生きている
戦争経験者には
六十年以上過ぎても軍隊の靴音に聴こえてくる
あの時しっかりと抱きしめたのは
家族の命だけで
靴音は捨て去ってきたのだが
自生するものが根付くように
平和が根付いたのだろうか
笑いながら
通り過ぎることができない曲がり角が増えている
軍隊の行進の靴音は
どこにでも隠れる身軽さを身につけているから
危険な兆候なのだと誰も気がつかない
それでも両の手を大きく広げて
走り寄ってくる孫の体をしっかりと抱きしめたい
なにがあったとしても
老いた命のバリケードを張り巡らせて
戻る 編 削 Point(5)