埃まみれ/千波 一也
空いた
椅子の上には
ゆうぐれが降っていて
絵描きになれない風たちは
せめてもの代わりに
言葉を混ぜて
去っていく
取り残された場所に
おそらく施錠は
必要ない
けれど
閉塞の向こう側の
失われがたい言葉の広さのために
だれかが堅実に
施錠する
だれにも見えない
湿度だけ明確な
言葉をもって
施錠する
古びた机は
所定の位置で
いまも教科書を載せていて
途方もない数の
かつての瞳たちが
ゆっくりそこへ
着地する
朝にも
夜にも
縛られないで
自分を呼ぶものたちを
かえってその名に
閉じこめて
軽くも
重たい年月は
包囲している
すべての
隙間を
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