そして君はもしかしたら鳥になるつもりなんだ/ホロウ・シカエルボク
 
。ああ、と君は手をひとつ叩く。「天狗なんだって、それ」僕は難しい顔をしてみせる。「天狗」「お婆ちゃんがまだ生きてた頃に言ってた、山の中で人についてくる音は天狗の足跡だって」「天狗」「そう、天狗」天狗か、と僕はなぜか納得する。そうすると草の中を走る足音は気にならなくなる。頂上まであとどのくらい?と君が聞く。よく判らないけどもう半時間もかからないんじゃないかな、登った人の話じゃ。「よし」君はソリ犬を元気づけるみたいに義足をポンポンと叩く。不思議とその音はアフリカンパーカッションの様に響く。何羽かの鳥がコンサートのようにその音にレスポンスする。「20分で制覇してやろう」「無理をするなよ」「無理じゃないよ(ターン)」「実は私はサイボーグなのだよ」「へいへい、じゃあ頑張りますか」「疲れたらおぶってあげるよ」「へいへいよろしくね」僕たちは一目散に頂上を目指す。一面に張り巡らされた枝々の間をくぐり抜けて、冷たい霧を撒き散らしながら降り注ぐ太陽の光は、何故だか僕に巨大な教会の聖堂を連想させる。近いうちきっと君は僕を追い越して歩くようになるだろう。


戻る   Point(3)